HISTORY

第十三話

生まれて初めての津田沼駅、世田谷から車で向かったが遠かった。
以前、幕張の機器展とモーターショーに行った時に確か「こんな遠いん
だったらもう来たくない!」と言っていた自分を思い出した。
ザウス(屋内スキー場)とか、野外シアター?(駐車場から車にいながら
にして映画が見られる)で、
船橋は有名だったが、津田沼は更に先に位置している。

とにかく、かなりの人が流れて行く、駅前の2Fのデッキも広い!
「よしっ!やってみよう!」
小さな星、涙の色、小さな星、涙の色、小さな星、涙の色。
たまに、雲よりも遠く、愛されていたい、虹色の目、楔、、。
渋谷とは違った、、見る見る間に人だかりが出来た。

「凄いっ!」
誰かが、500円のCDに手を伸ばすと、瞬く間にCDが売れて行った。
そのつど、奥華子は演奏を休憩し、チラシ配ったり、お釣りを渡したり
CDを渡したり、バイトの優ちゃんと2人は大忙し。
誰かが「サイン下さい!」というとみんなが並んでサインを待ってくれた。
なんだか良く解らない”目玉マーク”だ!(笑)
でも、奥華子はず~っと嬉しそうだった。
ず~っとニコニコしながら話しをしながら
最後の最後までサインし「すみません、握手させて下さいっ!」と
自分から声をかけていた。
「近所の人が通ったら恥ずかしい」「同級生が通ったら恥ずかしい」
と言っていた以前の奥華子はそこにはいなかった。
あったのは、聞いてくれている人々に向いた、ただ真っ直ぐな眼差しと、
サインの時に両手でお客さんの片手を包み込むように、
何かを願うように握手する姿だった。
照れ笑いしながら「そうか~、、」と言うおじちゃんもいれば
「あんたうまいね~」
と言うおばちゃんもいる、女の子も男の子も、スーツ姿のサラリーマンも、
酔っ払って上機嫌な人達も、、、。

津田沼駅のデッキの一角は、ある種異様な空気と、人の熱みたいな、
なんとも言い表す事が出来ないアンビエントな世界が生み出されていた。

20:30~23:30の約3時間、「ピッチが悪い!」「唄が走っている!」
「ピアノ、違うとこ弾くな!」
怒鳴られながらも、立って歌う事がまだおぼつかなくてよろよろしながらも
一生懸命唄って、サインして、握手した。
持って行ったCDは全て無くなった256枚完売だった。

僕なりに確信はしていたものの、実際目の当たりにしてかなり戸惑った
「なんでなんだ~、、」「あんなに下手なのに、、」
「曲も普通だし、顔だって、、」
とにかく、一刻も早くこの現象はどうにかしないとけない、、。
とにかく、想像を超えていた。
興奮したまますぐに業界仲間に電話しまくった。
「路上ライブで256枚売れたんだ、、凄い事になるかも、、」
だが、、、。
誰も無名な路上アーチストになどに興味は示さなかったのだった。
、、ん~~、、どうしたら
「ああ~ん?なにそれ~?」
と驚いて、興味を持ってくれるんだろうか?

解った、、。
「3日で1000枚ぐらい売ればみんな耳を傾けてくれるにちがいない!!」
2004年6月2日津田沼路上ライブにて。